アメリカンフックドラグの時間


  アメリカンフックドラグを知ったのは5年ほど前、図書館で小林恵さんの本を借りてからです。小林恵さんのことは、その他のアメリカの手芸の本を持っていたので知っていましたが、フックドラグの本の内容の濃さに驚き、すぐに自分でもその本を入手しました。そのまま数年、着手しようしようと思って時間に甘えているうちに、暮らしの手帖が小林恵のフックドラグを2号に渡って特集しました。

 焦りと自責の念で、居てもたっても居られなくなった私は、この帰省に掛けたのです。ちょうど車のシートに敷くおざぶのようなものが欲しいと思っていたので、渡りに船。それを作ろうと決めました。道具はほぼ不要です。ラグに使うウールも着なくなったセーターでいいのです。平織りの生地が勧められていましたが、私は目の細かいメリヤス編みのセーターをローラーカッターで切り刻みました。問題無かったです。学生時代に奮発して買ったマルタンのセーターも切り刻んで使いました。

 手作業というものほど、好きなものはありません。始めると止まらずスイスイとループを作って進みます。セーターを切り刻んでいるので1本の紐はせいぜい30センチくらいです。もう1本、もう1本と刺して行くうちに夜が更けてしまいます。20代前半は、徹夜で手芸をしていました。でももう、同じことをすると翌日が愉快ではありません。どこかで手を止めて寝ます。そんなこんなで、半端な状態で帰省が終わりました。

 一日中くだらない、オーシャンズ11シリーズなどの映画をかけながら、ずっとフックを刺す日が欲しいです。ふと作業の手を止めて、ブラッド・ピット扮するラスティーがナチョスなんかを頬張りながら、ジョージ・クルーニー扮するダニーに目配せをしてから立ち上がる、そんな一瞬を横目で確認してから、またラグに目を伏せてひたすらループを作り続ける、そんな一日が欲しいです。

 しかし転居先にはテレビはもちろんのこと、映画を映す白いスクリーンも、絨毯も、ソファも、ありません。ほぼ全て手放しました。何にもないところからのスタートとなりそうです。

 もちろん車の、おざぶもありません。