食卓の風景」カテゴリーアーカイブ

枇杷とさくらんぼの季節

June 22nd, 2018


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 枇杷の季節とさくらんぼの季節が重なるとは、なんと愛おしいことだろうか。控えめな枇杷の横にいると、さくらんぼ(しかも佐藤錦)も清楚でコビない、花の実に見えるからいいじゃないか。

 

 竹見台マーケットという、「マーケット」と言い表すしかない施設が、近くにあるんです。今一番好きなトコロです。肉屋(牛肉)、キムチとかソフトうどん麺やストレートツユのパックも置いている豆腐店、鶏肉屋(鶏と卵)、八百屋、惣菜屋(煮物、揚げ物)、そして果物屋という専門店がボロい建物の中に入っています。

 

 ここがありがたくて泣けて来るんですよ。最初は、私が苺好きだと聞いた桃山台に住んでいるおかーさんの同期のEちゃんが「ここの果物屋の苺は格別だよ」と教えてくれたんですよ。で、行ってみたらそれはボーっとするほど美味しい苺でした。ここの果物は「秀」以上なのは当然で、特定の生産者から仕入れているという果物屋さんでした。月に2度ほどのペースで通っていましたら、果物屋さんのオッチャンニーチャンがついに昨日私の顔を見てあちらから「あ、まいど」と言ってくれたんです。標準語しか話せないので、特にこういうローカルな場所ではどうしてもヨソヨソしい対応を受けがちなのですが、ついに心が通じたようです。今日はオトクな佐藤錦と、「これ食べたことないやろう」と小さくて甘い「ビワっこちゃん」を勧めてくれました。佐藤錦も特定の生産者から直で取ってるんでしょう、証拠にパックを留めているテープが「さくらんぼ柄のマスキングテープ」でした。そもそも私は最初、貴陽というスモモを買おうとしたんです。そしたらまだ旬になってないから甘くないし高いから絶対買うなと言うんですよ。じゃ誰に売るつもりなんでしょ。右も左もわからない女のカモがネギ担いで来てるのに。

 牛肉屋さんでも、ちょっと高め(美味しめ)の牛肉を買おうと覗いたら、「今日はこのコマの安いので十分ですわ」と言うんです。わたしはその隣のグラム398円のものを買おうとしたのに、グラム198円のものを勧めてきます。聞くと、日によって安い方の肉はモノが違う。今日は安いものも隣のものと同じクオリティであるから。ということです。(これを遠慮気味に絞り出すような大阪弁で言うのですが再現できず)ならばと、この女のカモは買おうと思っていた量よりも少し多めに買い求めました。気持ちがすごく嬉しかったんです。

 その後に寄った鶏肉屋さん。ここのタレ焼き鳥は「ねぎま」と「赤鳥」の2種類があるのです。以前その2つを一緒に買って食べたところ「赤鳥」の旨さに腰を抜かしたんですよ。タレは同じものなはずなので、肉の旨さでここまで違うかあ…とポジティブな意味でガックシきたんです。今日は「赤鳥」一本に絞って向かったんですが、夕方だったせいか売り切れていました。じゃあ…と呟いて立ち尽くしていたら「これはぁうまいっ」と70歳近そうなおじいちゃんがいうので、モモの照り焼きを買いました。「ねぎま(5本入り)」もオマケでつけてくれました。相手のおすすめを素直に聞くと得をするのですね。女のカモはありがたく買い物袋を下げて鶏肉屋さんを後にしました。
 ある時は「胸肉を1枚ください」と頼んだら家に帰ってみてみると、自分が思っていた量の2倍の大きさでした。スーパーで買う1枚と思っていた胸肉はどうやら1枚を半分にした量だったようです。こんなことも鶏肉屋さんで鶏肉を買うまで知らなかったことです。

 これは大阪に来て割とすぐに気づいていたことですが、大阪にはイカリや阪急オアシスのようなちゃんとしたスーパーもあるけれど、それ以上にこういう専門店がちゃんと残ってるんですよ。私の住む地域はニュータウンですが、それでもそうです。もちろん、東京や横浜に住んでいた時にも専門店はありましたが、こんなに高いレベルではなかった。高いレベルの専門店にわざわざ行かなきゃ、美味しいものを手に入れられないという感じ。私もモノ好きなので色々回りましたが、味やコストの観点から結局、高級スーパーがいいやということが多かった。しかもそれで満足していたような感じも哀しい。東国の人々とアングロサクソンは美味しいものを知らないというエピソードは雁屋哲の『美味しんぼ』で延々と語られるテーマなのですが、それを身をもって実感しています。
 果物店が「特定の個人の生産者から仕入れている」というのも、専門店ならば至極当然なことなのかもしれない。しかしスーパーで買うのが普通になっていると、いかに「標準化された食べもの」を食べているか、ということに気が付かないものです。
 欲を言うと、東京の「福島屋」のようなスーパーをまだ関西で見つけられていません。知っている関西の方がいたらぜひ教えてほしいです。パントリーというスーパーがちょっと近いかなと思いますが、ここはどちらかというと成城石井に近いかな、もう少しガチに独自の基準値を持っているお店を望んでおります。

 話を説教臭くするつもりはなかったのですが、関西ってやっぱすごい、ということが言いたかったのです。そしていかに自分が東国から来た田舎者であると思い知らされることが多いということも。



 

2枚目オマケ:最近好んで飲んでる炭酸水。ほどよい硬さと、微炭酸と、塩味がマッチしすごく好み。
3枚目オマケ:最近使ってる野菜洗剤「ベジセーフ」。「ほたての力くん」を愛用していたが、先日完成間近の炒めものに「ダイショー塩コショウ」と間違って勢いよく周富徳(古い)よろしく投入してしまい撃沈して以来あまり使っていない。当然だよね。ホタテの力くんとダイショー塩コショウは同じ容器だもん。いつかやると思っていたよ。

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豆の鞘

April 27th, 2018

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 えんどう豆の豆を鞘から取り出すときに、ついつい個体差の事を考えてしまう。鞘が大きく立派な割に、中がすかすかの場合もある。隙間なく同じ大きさの豆がぴしっと詰まっているのを見ると、ああ、親御さんのやり方が立派だったんだな。とか、親御さんがお金はかかるけれど将来のために…と永久歯が生えてすぐに100万円以上かけて歯の矯正をさせたんだな。とか考えるのだ。無論、遺伝の場合もあるだろう。そもそもメンデルは遺伝の法則はえんどう豆のシワから見つけたわけだし。完全な優劣が現れるのはむしろ例外的だと考えられているし、独立の法則ということも考えられる。
 最後の鞘の背を爪で開けると、中には何も入っていなかった。


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苺の季節

March 12th, 2018

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さちのか
さがのか
ゆめのか

まりひめ
さぬきひめ
さくらももいちご

あまおう
あまみつ…

 今年私をたのしませてくれた苺の名前だ。苺を買う時は、必ず2パック違う銘柄で買って味の違いを楽しんだ。同じ銘柄でも作り手や産地で味が変る。ひとつのお店では満足できなくなり、色々な店に出向いた。関東とはまた違う苺が楽しめる。

 先日近所の銭湯の露天風呂で空を見ていた。今年は「徳島公方のさちのか」と静岡の生産者が作るという「あまみつ」というのが特別美味しかったなと、考えていた。口の中に濃厚な香りと舌下が捻れるような強い甘みが蘇った。それと同時に、二度と買うことが無かった銘柄を思った。どの苺だって私に春の夢を見せてくれて、香りを運んでくれた。優劣をつけて申し訳なかったと、思った。

 『ローマの休日』のラストシーンがふと頭をよぎった。王女は記者会見で欧州訪問の感想を述べている。公的な立場の彼女は特定の国を褒めたりしてはならない。けれど”Rome”と言ってしまう。

 お湯に浸かって空を見る私のイマジネーションの展開は速い。『ノッティングヒルの恋人』のラストシーン。このシーンは『ローマの休日』のくだんのシーンをベースに敷いていると言われている。ノッティングヒルにある青い本屋のタッカー(ヒュー・グラント)とアメリカ人女優のアナ(ジュリア・ロバーツ)は恋に落ちたが、誤解があり酷い喧嘩をした。そのままアナがアメリカに帰る日が来る。身分の違いから自分の愛を直視できなかったタッカーだが、仲間たちにばかだのとんまだのと罵られるうちに、自分は彼女を深く愛していたことに気づく。アナがリッツで帰国の記者会見をしていると知ると、友人マックスの愛車プジョー406ブレークはボンドカーの如く火を噴いた。

 タッカーが会場に着くと会見は終わりかけていた。ある記者がした「いつまでイギリスに滞在するか?」という質問に「今日これからアメリカに帰る」と答えるアナ。そこでタッカーは『馬と猟犬』の記者に扮して、恐る恐る「友人のタッカーが許しを請いたいと言っている」と語る…アナは自分の愛の証明として、先の記者に同じ質問をさせる。そしてタッカーを見つめながら…”Indefinitely.” と答えると、帰国の記者会見は結婚記者会見の様相を呈するのだった…

 鼻がツンとしたかと思うと、火照った頬に流れた涙に冷たい風があたっていた。苺のことを考えていたのに、さすがにばかばかしくなった私は首を傾げながら露天風呂を後にしたのだった。

 後日、マクドナルドで夫とチーズバーガーをかじっていた時。「お風呂で空を見ながら苺のことを考えていたら、知らぬ間に泣けていたの」とノッティングヒルの恋人の下りまでを話した。夫は「ばかばかしいね」と一蹴したが、目が充血して潤んでいた。彼もアナの “Indefinitely.” にやられたようだった。


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パイレックスの3-cupフードストレージ

September 29th, 2016

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 作り置きは得意ではありませんが、この夏にバターナッツカボチャのポタージュを作って毎日一口づつ、食事で出していました。ビタミンのかたまりのようで、いかにも体に良さそうで、また夏の火照りをうまく冷ましてくれました。南瓜色のポタージュが入ったコンテナは100円ショップで買い求めたもので、液体の保存に重宝しています。夜寝る前に厚削りの鰹節と昆布を入れて軟水を注いで、翌朝のお味噌汁に使います。加熱した出汁は、熱さが落ち着いたら塩をひとつまみ入れてまたこれに入れて保存しています。この塩はちょっとした保存料です。
 おかずの保存は、浅い形のコンテナがいいかなと思います。冷蔵庫の中で重ねられるので省スペースです。ガラスだと中身が見えて、食品の臭いが残らず、すっきり洗えます。いろいろなサイズがありますが、私はこのpyrexの3cupを4つ、6cupを2つ、11cupを1つ揃えています。フードコンテナはいろいろなものがあり、食器棚で溢れかえってしまいます。サイズとメーカーを統一すると、食器棚でも冷蔵庫でもすっきりします。
 pyrexのガラスのコンテナは私が幼い頃から母親が愛用していました。夏に冷たいラタトゥイユを入れて、海へ出かけて、パラソルを差したテーブルの上で、そのまま蓋を開けて、焼いたお肉と一緒に。そんな素敵なランチを何度もしました。秘密のビーチへ行くために、重い道具を持ってひとつ山を越えて…妹が着ていた濃いピンク色のミキハウスの水着の柄まで…小学生の頃のことを昨日のように思い出せます。
 母は仕事で忙しかったので、帰宅してお母さんのいる友だちが羨ましかったものです。でも、当時の気持ちを慎重に思い出すと、求めても得られないと知っていたからか、「そういう感情を自覚しないように遠くを見つめる感じ」というのが一番近い感覚です。でもたまに友だちの家で、焼きたてのクッキーが出てくると堪らない気持ちになりました。
 ある日、母の仕事が休みの日に、学校から帰ると、りんごのクラフティを作ってくれていたことがありました。pyrexのガラスのコンテナの淵に焦げ付いた甘い香り。ブルーの蓋の硬さ。pyrexのガラスのコンテナを眺めていると、あまり多くない、そんな記憶をいくつも思い出します。


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かたい桃の香り

September 19th, 2016

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 桃はかたい方が良いか、柔らかいほうが良いかと聞かれたら、かたい方が好きかもしれません。甘さの問題ではなく、香りの種類が全く違います。
 よく熟れた柔らかい桃は、はじけるような甘い香り、時に「ピーチガムのような」はっきりと主張する香りがします。かたい桃は「頼りない青いばらの香り」です。青いばらとは、青い花びらをしたばらのことではなく、ばらの香りの中でも濃厚な香りでなはく、青臭い香りの種類のそれです。
 そう。中学生の頃に買ってもらったグラサンボンのコロンを思い出しました。(GIVENCHY・GRANT SAN BON)磨りガラスの瓶に薄い桃色で、あの特徴のある、まあるい筆記体で書かれた文字から香る、無邪気な甘さと、頼りない未熟な色気。かたい桃の情景と一致します。
 私の父親は根がロマンチストで、ばらを育てています。当然桃も、「かたい方」を好む人間です。桃の産毛が口内の粘膜に鈍く当たるのも気にせず、かたい桃にそのままかぶり付いて「ああ、ばらの香りがする。桃は、ばら科だから当然のことだけど」といつも言います。
 今年ひとつだけかたい桃に行き当たりました。皮を剥いてみると、中の身まで全く均等に桃色に染まっている。これはかたい桃に稀にあることです。白桃でもなく黄桃でもない、桃色をした桃です。
 夏の水菓子は、草野啓利さんのガラスプレートに盛り付けます。上から見ると変形した水溜りのようなかたちをしています。結婚した夏に草野さんの工房を訪れた時、草野さんが工房の奥からこのプレートを持ってきて、乱暴に新聞紙にくるんで私の目の前に差し出してくれました。その時の優しくはにかんだ草野さんの表情を今でも覚えています。暑いあの日、視線の奥に見えた工房の空気はゆらゆらと蜃気楼のように熱く、ガラスそのものを思わせました。


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