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私がジェルネイルを辞めたわけ <1>

July 14th, 2017

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 これからする話は、以前私がネイリストをしていた時代の最後に、私の愛すべきクライアントの皆様へお話した内容と重複いたします。当時のクライアントの皆様に改めて、そしてついぞお会いすることが叶わなかった、私のネイルアートを愛してくれた方々へ送ります。


 ご存知の方も多いとは思いますが、私はコンサルファームを辞めてすぐ、突如ネイリストになろうと発起し、スクーリングをし1年半ほどかけて全ての資格を取りネイリストになりました。持ち前の手先の器用さで、技術的な部分はわりと問題なく飲み込んでゆき、ネイリスト検定一級とジェルネイル検定上級という2大資格を最短で取得できました。
 更に運が良かったことに、かなり絵心(絵の才能や技術ではなくあくまでも「絵心」)があったらしく「ネイルアート」が得意でした。もともと家族もほとんど美術畑を通っており、自分自身も絵画鑑賞が大好きで、画集もたくさん持っていますし、海外のアート雑誌もサブスクリプションしていたので、いわゆる「ネタ」には事欠きません。その上に、爪の上ほどの大きさならば模写が可能でした。全体のバランスをとって全てを模写するのではなく、所謂「部分」を10の爪に分散させて雰囲気を写し取るだけなので、それが可能だった(可能に見えた)のです。

 冒頭に「突如ネイリストになろうと発起した」と書きましたが、会社を辞めて暇に任せてセルフジェルネイルで爪の上に抽象画を描いていたのを、プロのネイルアーティストの方も色々な方が褒めてくださりました。そして70歳を過ぎた祖母が「素敵じゃない」と褒めてくれた時になぜか「これはいけるかもしれない」と思ったのです。とうとう木のてっぺんまで登った私はネイルスクールの門を叩いたというのが正確な経緯です。つまり私はネイルアートからネイルの世界に入ったのです。



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私がジェルネイルを辞めたわけ <2>

July 14th, 2017

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(前回からの続き)

 しかし道玄坂の上にあったNから始まるネイルスクールは、由緒正しき学校でした。
「ネイルアートよりもネイルケア」「ジェルよりもスカルプチュア」というネイルに関する根本を主義としていました。ネイルアートの繊細さよりも、自爪を美しく見せ、更に強度を持たせるための、爪のエッジの形状、甘皮を的確に処理するためのニッパーの刃の角度、美しく素早くネイルポリッシュを塗るための動き方や姿勢、などを優先していました。

 スカルプチュアというのは簡単に言うと、つけ爪です。脱着可能なものではなく、特殊な樹脂や接着剤を使って自爪に直接付けてしまう技術です。もともとはハリウッドで撮影のためにゾンビの特殊メイクを担当したヘアメイクさんが開発したつけ爪の方法で、以後はオシャレを楽しむ人だけではなく、病気や事故などが原因で爪の形にコンプレックスがある方などにも愛用者がいました。

 ネイルケアの重要性というのは簡単に頭で理解できましたが、なぜ、このスクールがジェルネイルよりもスカルプチュアを重視したかということは、自分がジェルネイルを辞めた今、よくわかるような気がしています。スカルプチュアというのは、筆に取った柔らかい樹脂を爪の上に載せて「その人の手の形に合った理想的な爪のかたち」を筆を器用に使って素早く形作ります。5分ほどでカチカチに硬化するので一瞬の作業です。硬化後、長さ厚みや全方向からのフォルムを点検しながらヤスリをかけて完成です。

 何が言いたいかというと、素早く「理想的な爪のかたち」を作るには、「理想的な爪のかたち」というものを「知っている」ことが絶対的に必要だということです。それは無論ネイルケアにも言えた話で「一番綺麗な自爪の状態」というものを徹底的に知っていなければ、その状態を再現することが不可能でした。つまり最終的に私が何を理解したかというと、そのスクールの主義は「一番理想的な状態や形を理解すること」であったということなのです

 そしてほぼ同時に、私の中で「爪を含んだ一番綺麗な手の姿」というものが確定したのです。



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私がジェルネイルを辞めたわけ <3>

July 14th, 2017

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(前回からの続き)

 それは昔観た「アトリックス」というハンドクリームのコマーシャルの中で空中で軽快にパパンと両手を打ってみせるその手でした。まさにあれだ、と確信したんです。そこにはもっちりと健康的な膨らみを帯びた手指に多少のフリーエッジ(爪の先端の白い部分)をもった何も塗っていない爪があったはずです。その瞬間から、私はまず自分自身にネイルアートを施すことを辞めていました。ただ便利なジェルネイルだけは続けていました。ベージュのワンカラーです。たまに気分で濃い赤を塗っていました。

 一方で私のネイルアートを愛してくれた方々は、足繁く私のサロンへ来てくださいました。何ていうのか、とても不思議でしたが、とても人間性の濃い、感度の高い方々ばかりで、施術時間中は刺激や情報や人生の交換をさせていただきました。私はひとりひとりのクライアントの皆様を本当に尊敬していました。

 だからこそ、ネイルアートを辞めた自分がネイルアートを施し続けることに背徳感を感じていました。私の中で確立していた「爪を含んだ一番綺麗な手の姿」を提供していないこと、むしろ尊敬するクライアントの皆様をミスリードしているのではないかという背徳感です。ありがたいことに毎日予約を頂いていましたが、求められるありがたさと、提供していることのギャップに毎日悩んでいました。
 そんな中、夫の都合で転居することになり、一時サロンをお休みすることになったことが大きな転機となりました。引越の都合で、ジェルネイルの道具を1ヶ月間倉庫にプールしていました。その間、自分もジェルネイルが出来ず、仕方なく自爪に戻してケアをしてポリッシュを塗って生活していました。



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私がジェルネイルを辞めたわけ <4>

July 14th, 2017

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(前回からの続き)

 シンプルな話でした。自爪にした私の手はとても美しく見えました。一番大きい違いは「爪の厚みの自然さ」「横から見たフォルムの自然さ」でした。ジェルはどれだけ頑張ってもある程度厚みが出てしまいます。しかも2〜3週間は持ってしまうので、根本から伸びてしまいます。付けたてはネイリストが綺麗だと思うフォルムが出来ていたとしても、2〜3週間後は悲惨…。けれど「爪を含んだ一番綺麗な手の姿」を知らなければ、そんなことも気にならないんでしょう。その無知さは、むしろ分厚いジェルネイルが伸び切ってしまっている爪よりもむしろ大きな問題です。
 フォルムもさることながら衛生面も気になっていました。爪とジェルの隙間に水が入り込んでしまえば、そこは体温で細菌が繁殖しやすい環境になります。ジェルの爪で平気でお料理をする方を見ていると辛くなりました。
 更にちょっと浮いたところから無理にジェルを引き剥がしてしまえば、爪の組織も一緒にくっついて剥げてしまいます。自爪がうすくなり、またジェルを載せることでしか解決できなくなります。このような状況に軽薄な理解しかなければ、ジェルのオフをわざわざプロにしてもらおうなんて考えないのです。お風呂の中でふやけたついでに剥いてしまう、自分でオフをしてみようとしてしまう…いやむしろプロがしたとしても、ジェルで爪がいたむは当然です。いたまない訳がない。樹脂を溶かすほどの溶液に皮膚や爪を浸すんですから。

 自爪の生活に戻った私は、それ以降ジェルを付けている女性の爪先が可哀想に見えてくるようになってしまいました。もちろん、付けたてを思わせる綺麗なフォルムのジェルネイルを見ることもたくさんありました。そういう状態を維持なさる方は、1、2週間に一度必ずネイルサロンへ行ってお手入れをしていらっしゃるんでしょう。逆に1、2週間に一度必ずネイルサロンへ行ってお手入れが出来ないのであれば、ジェルネイルを維持するのは困難なんだと痛感したのです。そして、それってほぼ、不可能に近いことな気がしました。無力感を感じたのです。

 結果、私はジェルネイルの施術を辞めさせていただく決心をしたのでした。その時の自分の言葉を全て使ってクライアントの皆様へ連絡をさせていただきました。色々な反応がありましたが、その中で「カエさんがそのような流れになることは、当然なことだと思っていました」と言ってくださる方が何人かいらっしゃり、私はとても救われたのです。その時に連絡をさせていただいたクライアントの皆様の存在は今でも心の中の大切な宝物です。いずれナチュラルネイルケアのマニュキアの美しさを身をもってご納得いただけることを、とも考えていますが、まだ実現できそうにはありませんが。



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