レモンの冷たさ


IMG_1614  レモンが好きです。これほど完全な存在は中々ありません。

 姿が端正で洗練されています。両端がキュっと絞られ、たるんだところがありません。赤みの少ない青っぽい黄色も涼しげでいいです。寒色に近いイエローです。地中海の乾燥した陽気がいいなと思います。南国の湿り気のある果物とはちょっと趣が違うような気がします。シトラスという名前もとてもいいです。サ行と「ラ」が綺麗に軽くまとまっています。なぜこんなものの一顆が、こんなにも冴えて、完璧なのでしょう。神様が造ったものだからでしょうか。

 レモンには食べ物以上の存在感があります。高校3年生の時「文学部」という部活に入っていました。もちろん活動は文化部的なそれです。同学年は私ひとりで、部長も後輩がやっていました。課題図書を決め、それを読んで書評するのが主な活動でした。もちろん自分で文章を書くこともします。私も蛹化したてのサナギのような純文学を書いていたものです。(「蛹化したてのサナギ」というのを、どういう意味にとってもらっても結構です。)そこで梶井基次郎などをよく読み合わせていました。『闇の絵巻』や『櫻の樹の下には』などちょっと重めなものを好む年頃でした。

 『檸檬』は教科書にも載っていましたが、ここでもじっくり読みました。著者の胸につかえる悪熱に対する、檸檬の冷たさのたとえようもない良さは、最終的には著者の焦燥や鬱屈などの「ガチャガチャした色の階調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえ」らせる救い神のような存在にまでなってゆきます。ラストシーン、気取り腐った丸善の洋書売り場での著者の企みは、文字通り色彩鮮やかに書かれています。「レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色」。私は個人的にターナーのダンディライオンのような少々青みを帯びた絵具をイメージしています。

 私がこんなにもレモンの鮮烈さに憧れるのは、恐らくここが原点なんでしょう。

 もちろん食べるのも大好きなので、国産で皮まで食べられるものを見つけるとちょっと多めに買ってしまいます。皮も実も全て食べつくします。たくさんレモンを買ってきたら、まず皮を包丁で剥きます。表面の黄色い部分だけを包丁でリンゴを剥く要領で剥いてゆき、竹串に刺して本部*1で乾燥させます。写真では実をスムージーに入れるために皮の白い部分までを剥きとっています。乾燥させた皮は爪1つ分くらいに千切って、紅茶やハーブティのポットに放り込みます。もしくはゼスターで皮をそいでオリーブオイルに漬けてレモンオイルを作っておきます。実は一度に大量には使えないので、全てスクイーザで絞り、製氷機に入れて凍らせます。製氷機でキューブにしておけば、ちょっと使いたいときはキューブ1つ分を解凍すればいいですし、お酒を飲むときなどはそのままグラスにポトンと落とせば、濃いレモン味です。

 

*1 過去のブログ「マッシュルームの丸干し」を参照のこと。