小沢健二の新譜


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当時は暑苦しいものも嫌いだったし
子どもっぽいこともごめんだった
ボーイズとつくバンドは聴く気になれなかった
ザゼンも銀杏もテリヤキも
不潔そうで頭わるそうなバンドマンには興味がなかった
不潔そうで頭わるそうな男性は今だってごめんだけれど

小沢健二の新譜を聞いていた
素敵なオルガンは沖祐市なのかなと調べていたら
関連して峯田和伸と『ある光』をコラボしている動画があった
『ある光』自体が精製度が高くスピードが早く凍りついた水晶のように冷たい曲

雪がふる長岡駅の東口 高校の帰り道
終わりかけのルーズソックスを履いている女子は大抵ピンパーマの男の子と一緒に歩いていた
彼らの頭は驚くほど大きかったけど 大抵それらの男の子は可愛い顔をしていた
そういう子たちがGOING STEADYを聴いているという風俗は知っていた

冬の日 まだ中学生だった私
隣町に住む友だちに連れられて 知らない子たちが出るライブへ行った
私は原宿の古着屋で買ったファビットファーのショートコートを着ていたから寒い頃だったと思う
ステージの上で激唱している男の子はイケてなかったけど 歌っている曲は良かった
もしも君が泣くのなら僕も泣くと何度もシャウトする曲
コピーバンドだったことも全然知らなかった

金曜日の六本木
26時をまわった頃 オフィスに人は少なく 残った面子が誰ともなく誘い合った
レバ刺しが禁止された頃 六本木か赤坂付近で食事をしてからカラオケに入って朝まで歌った
毎週のことで誰が何を歌うかは大抵決まっていたし
カラオケではテキーラとレモンサワーしか頼まなかった
ある日誰かが聴きなれない曲を歌っていた 銀河鉄道の夜
すぐに上司と後輩の女子が歌う淋しい熱帯魚に掻き消えていった

東京スカパラダイスオーケストラと峯田和伸の『ちえのわ』
なんども自分の耳を素通りしていった峯田和伸の声を初めて自分の耳が捉えて胸をつかまれた
今だって認めたくない気がする
知恵の輪外して虚しくてまた元に戻した ばらばらにしたくない 離れたくないんだ
揃いの衣装も似合っている 股上の深い太くも細くもないセットアップ

春の玉川通り 
神泉の近く玉川通りから 山手通りへ降りる松見坂の方へ
信号待ち 駒場のあたり 隣り合った黒いかっこいい車の黒いかっこいいサングラスの男性と目が合った
助手席の友だちが「あ、スカパラの人だよ。背が高くてすごくかっこいい人なの」

小沢健二の『ある光』を小沢健二と峯田和伸が歌うのをどきどきしながら聴いていた
数ある小沢健二の楽曲からこの曲を峯田和伸が歌うのは当然だなと感じた
この精製度が高くスピードが早く凍りついた水晶のように冷たい曲は峯田和伸にぴったりだ
敬虔さ
僕のアーバン・ブルースへの貢献
語り はかなり恥ずかしかったけど

もしも君が泣くならば僕も泣くと歌っていた人は峯田和伸だった
ちえのわを書いた人は松見坂で隣り合ったサングラスの人だった
峯田和伸がGOING STEADYだったことを知って いくつかの動画を観たけど
解散を惜しむ人々のコメントを読んでゆく内に うまく白けて
掴まれていた胸の皺は徐々に緩んでいった

今 小沢健二を交差するふたりの女の子
満島ひかりは触れるもの全てを腐らせる 容れ物の中の水が濁っているそれが彼女の魅力
当然ラブリーも腐った それまで小沢健二が歌ったラブリーしか聴いてこなかった私は 腐ったラブリーを初めて聴いた
二階堂ふみは氷と水の入った鉛を含んだグラスに沈め入れた水晶のような声をしている
小沢健二と岡崎京子が経験した長い夜に透明な石ころになって転がっているような

許し
私は彼の古い友を許せず「ファックス隠す 雑誌記事も捨てる」ふうだったけれど
汚くなることも弱いことも離婚することも 消費することも消費されることも 目が見えないことも許された今
私は彼の古い友を許せた気がした 疎遠になっている自分の友も
許しという魔法がかかった曲だった