16年の映画『マネー・ショート』


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 2008年のサブプライムローンの問題が本当によく分かった。リーマンショックと言われてるけど、リーマンブラザーズの株価が0円になって破綻した理由をよく知らなかったから。本当に面白い映画だった。映画で観れてよかった。

 しかし、ここ最近のクリスチャン・ベイルの良さは止めようがないようだ。中学の頃に夢中だった『velvet goldmine』では、うだつの上がらないイギリスの田舎から出てきた、赤ら顔のますかき少年役だったのに。この映画での役は、ヘヴィメタルを爆音で聴きながら薄れたグレーブルーのTシャツ、素足でオフィスを歩く医学博士。であり天才トレーダー。こういう役はオイシイ。アメリカンサイコでの役は全く正反対と言っていいけど、それも大好きだ。(アメリカンサイコってハイエンドなスプラッタコメディなので気軽に観てみて欲しい)クリスチャン・ベイルは身体も素晴らしい。今回も何故かプールで泳ぐシーンがあったのだが、あのシーンはベイルの身体を見せるためだけのシーンであり本編に必要だったかはかなり怪しい。

 そして私が大好きなブラッド・ピッドはもっとオイシイ役。元はマンハッタンで名を轟かせたバンカーで、今はゴミ溜めのようなウォール街を嫌悪して、郊外へ移り、木炭と小便で洗浄した土にオーガニックの種を蒔いてサラダを食べ、定期的に腸洗浄をする潔癖な変人。ウォール街での契約や多額の証券の売却など、嫌なことをした後は消毒ジェルで手指を消毒する。彼は銀行への信用がなく投資のチャンスを掴めない若者2人に無償で協力する。ヒゲづらに眼鏡。眼鏡は金縁にブリッジのあるタイプだが極めて繊細で知的だ。オーシャンズシリーズで詐欺のために地震を予告しに来る地学博士に扮したことがあったけど、あの感じをもっと良くした感じと思って頂きたい。

 マネーショートはアメリカ経済の破綻に賭けた投資家たちの話。審査なしで許可が下りる低所得者向けの住宅ローンが多量に出回り、当然不履行が起こり、それでも価値が下がらない証券。格付け組織もカネ絡みなので、その安全性にAAAを付与する。誰しもが住宅ローンの証券は安心と思っていた。実際にはそう簡単な仕組みではなく、ダメな証券を束ね、別の商品として合成され、そう簡単に綻びがわからない仕組みになっていたようだ。ローン延滞などの末端データから、この複雑化したシステムはまもなく破綻するといち早く気付いたのが医学博士にしてトレーダーのクリスチャン・ベイル扮するマイケル。住宅ローンの証券に多額の保険金をかけ始めたのだ。その行為は全く周りに理解されず、安心なものに多額の保険金をかけることは気の触れた行為とみなされる。たしかに異常な行為だったのだ。しかし、その異常な行為が発する不思議な金の香りは3者の嗅覚の鋭い投資家に届き、4件の世紀の賭けが行われたわけだ。
 投資家として、破綻が起こり利益が出ることを願いながら、アメリカ金融が崩壊することを信じたくない心の矛盾。アメリカの熱海でおなじみのマイアミからたらたら流れだす腐った血、食堂で冷めたピザを頬張るときに発する自分では気づかない哀れみ。人は無邪気であればあるほど悲しく、賢ければ賢いほど苦悩するのだろうか。
 そして訪れた2008年の夏。まさにその夏、外資系コンサルファームに入社した私は秋が過ぎて冬になる頃までアサインされる仕事が無かった。あの真夏、長引く研修にうんざりしてた。多発したゲリラ豪雨や、無関心なエアコンの空調の温度を思い出していた。