紀文のちくわ


IMG_0922  今年最後のおでんでした。

 実家のおばあちゃんが作るおでんには、スルメが入っていました。私はこの風味があまり好きじゃありませんでした。友人で、「おでんは、おでんの素で作るのが気分」という者がいます。その気分は何となく理解することが出来ます・・・ノスタルジーというものは説明がつかないのです。おばあちゃんもおでんの素を使っていました。あの赤と黄色と黒のパッケージは、食品庫を開けるたびに隅にあっても必ず目に入ってくるんです。余程のコントラストなんでしょう、いま目をつむっても蘇るほどの強い映像記憶です。

 母は九州の人で牛すじを好みます。母の実家の近くだったでしょうか、母と幼い妹と私が3人で並んでカウンターで長浜ラーメンを食べているという記憶があります。ラーメン屋さんのカウンターにおでん鍋があって、母がラーメンとは別に牛すじの串を取ってくれました。中洲の屋台でもラーメンとおでんはセットですね。妹はその後、牛すじや鶏の軟骨好きに成長しましたが、私はどちらかといえば正肉にしていただきたい人間です。中学生の頃、セブンイレブンのおでんに牛すじ串が登場したとき、彼女らは喜んで買い喰いしていました。

 私が作っているおでんは、いたって関西風かなと思います。鰹節と昆布でとった一番だしに、薄口の白むらさきと塩を入れるだけです。あとはこの大量の練り物が甘みを出してくれます。練り物ばかりだと笑われてしまうほど入れます。特に丸いふわふわの魚河岸(うおがし)は必ずです。あとは、なるとも大好きで斜めに大きく切って入れます。ちくわぶは東京に来てから知った味です。焼きちくわには「紀文」の焼きが入っていますので、練り物をまとめるリーダーになってもらっています。こういうしっかり者がいると場がまとまるのです。練り物は袋から出して入れるだけだから楽です。ほかの具も、下茹でをするのは大根と卵だけで、あとは人参、じゃがいもを生から投入します。シーズン中は時間があるときに餅巾着を作っておいて冷凍していました。醤油や味醂でもんだ鶏もも肉と干ししめじと餅をいれて爪楊枝で止めておきます。

 東京に来て知ったおでんの具のひとつに「すじ」があります。牛すじではありません。鮫の軟骨と魚のすり身をまぜた練り物です。毎月28日にある目黒の不動尊の縁日に出ているおでん屋さんで初めて食べました。東京でずっとおでん屋さんをしていて、不動尊の縁日も何十年も出ているという無口なおばあちゃんです。おすすめのネタを聞いたら「すじ」でした。ここのおでんが大好きです。赤ウインナやたまごなんかを、何度もおかわりして、生ビールをごくごく飲みます。真夏でもおでんで最高な気分になれます。