香りの名前


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 先日、私をよく知る友人が京都から遊びにきてlisnのインセンスをくれました。その香りの名前がHEART OF “F”だった。”F”はわたしのイニシャル、立ち止まってその刻印を見つめていました。
 そもそも以前、彼女と京都で待ち合わせしたのが四条烏丸のCOCONの1階でした。少し早くついたのでふらふらしていたらモダンな香のお店を見つけたのです。私はすぐに虜になり全ての香りを試して100本ほどのお香を購入しました。店を出て小さなショッパーを下げて椅子に腰掛けていたら、鈍色の瞳をした彼女がいた。ふうわりした栗色ショートカットが初夏の陽に白く透けていまいた。
 CANALE(カナーレ)、 AQUA(アクア)、FOLLOW(フォロウ)、AVENUE(アヴェニュ)これはその中で私が特に気に入った香りの名前です。香りはもちろんのこと、私はその香りの名前に惹かれていました。
 例えばAVENUEは「乳香と樹脂」の香りです。lisnではこの香りのキーワードを「大通り、初夏」としています。乳香はフランキンセンスのことです。乳香は、投薬(ミルラ)と並んで聖書において、東の方からきた3人の占星術の学者が献上した贈り物のひとつです。
 初夏の都市の硬い石の地面、石造の建物。顔を近づけてみる。樹脂という言葉から連想する硬い香りがします。昔の出来事、新しくて輝くもの、捨てたものと手に入らないものが、頭のうしろ側から去来していつの間にか消え去る。
 lisnの香りには、このように抽象的な名前が刻印されています。香りには形も無く色もない。名前が無いから、名前が付けられるのだろう。