スロギーのカタログ

July 31st, 2020

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スロギーのカタログに金原ひとみの短い小説があった。

初めて読んだ時から、かのじょの文章の構造とか嫌そうなところが好きだった。
同じ時に芥川賞を取った女の子の文章はよくわからなかったし、私の目に全然偶然飛び込んで来ない。

金原ひとみの文章は、予期せぬ時に私の隙間にプラティナ色の柔らかい蛇のようにするりと入って一瞬形に馴染んで、するりと出ていくような感じになる。

かつて、Hという男がいて金原ひとみと、もうひとりの芥川賞を取った女の子の間にいた。かれは2人の若い芥川賞作家と3人でミクシィのアカウントを共有して、入り乱れて文章を書いたりしてた。私の日記にもコメントをくれたけどそれが誰なのかは分からない。夜が明ける少し前の時空がねじれる瞬間に舌が火傷するほど熱いコーヒーを飲む、身体が火傷するほどあついバスに浸かる時間が好き、こういったのは一体、3人のうちのだれだったんだろう。

Hはやたら生命力が強いけど、片目を失明したし、今思うと、そのどれだけが本当のことだったんだろう。東京の街にあった看板の無い店で過ごした真っ白な冷たい十数時間、アヤとの話や、バレリーナの妹がスルメすら飲み込まない話や、高田馬場の山水ビリヤードの玉の色々。山水ビリヤードは一緒に撞いたから、あの色は本当か。

かれはもう、死んでいるかもしれないけど、たまにあの坊主頭を思い出す。Jに聞けば連絡先を知ってるかもしれないけど、私は多分聞かないと思う。人生にひとりかふたりくらい、ミッシングパースンがいるのも悪くないから。



(2019.4)